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意見書例1:隣家屋根上に足場を架設し、職人がのったことによる雨漏りクレームに対応

㈱✕✕ 訴訟代理人 〇〇 弁護士 様

はじめに

〇〇弁護士から、被告 □□様宅リフォーム工事において、被告 ㈱✕✕施工による、隣家の原告宅に発生した雨漏り現象について、現場立会い調査を依頼されました。原告主張による雨漏りの原因は、原告宅の屋根上に設置した足場および、足場周辺を職人が歩行することによる屋根瓦のズレ・割れ・欠けによるものとされています。

****年**月**日、現場で目視確認・散水試験・雨漏り発生状況を確認しましたので、結果を報告致します。

1.雨漏りのメカニズム

雨漏りは、下記の4つの条件の組み合わせにより、発生します。

①雨量

②風の向き

③風の強さ

④継続時間

したがって、大型台風でスピードが遅く直撃する場合などは、一般に①雨量が多く、②風の向きはほぼ全方向、③風の強さは強く、④継続時間はそれなりに永くなり、雨漏りに対しては最悪の条件となります。また、雨水は上から下へ降るだけではなく、風の影響で、横から、場合によっては下から上に向かって舞い上がる場合もあります。

雨漏りは、次の1次防水+2次防水のセットで考える必要があります。

屋 根
1次防水 屋根材・板金・シーリングなど、外から見える部分で、本件建物では瓦。
2次防水 捨て板金・下葺き材(アスファルトルーフィングなど)、外から見えない部分で、本件建物ではトントン。

1次防水である瓦だけでは、雨水の浸入を完全に防ぐことはできません。若干の雨水は1次防水の下部に浸入しますので、2次防水(下葺き材)の上部には、雨水が流れていることになります。その理由は、1次防水である屋根瓦は、屋根面全体で一体化にならずに、瓦という部材単体を重ねて設置しているものです。重なりは、密着することはなく、若干の隙間が必ず生じます。隙間があると、雨水は厳しい条件なら浸入します。建築では隙間なく施工することは困難です。

下記2枚の写真は本件建物ではありませんが、説明のために添付します。

下左写真:平板瓦の上に散水、下右写真:低位置で瓦をめくりあげた状態。

2次防水である下葺き材(この場合はアスファルトルーフィングと呼ばれる防水シート)の上には、水が流れている状態であり、瓦の下には水が浸入することを示しています。

なお、鉄筋コンクリート造建物では、屋上はアスファルト防水・塗膜防水など、「メンブレン防水」と呼ばれる不透水被膜により、完全に覆いつくしますので、2次防水はなく、1次防水のみになります。これは防水工事であり、本件建物の場合は屋根工事となりますので、完全に覆うことなく、瓦を重ねて設置するだけです。したがって、2次防水が必要となります。

2次防水として適正な材料を使用し、適正な施工を実施すれば、雨漏りは発生しません。屋根瓦のどこかから2次防水の上部に、雨水が浸入することは当然に想定されます。若干浸入した雨水を、2次防水であるトントン上部の土の隙間から排出するものです。雨水は重力の法則により、屋根勾配に沿って高いところから低い方に流れますので、雨水を排出できることが前提条件となります。

1次防水により、ほとんどの雨水を遮断し、若干浸入する雨水を2次防水で遮断することが、雨仕舞いの原則です。2次防水で遮断できなければ、雨漏り現象となります。したがって、雨漏りについては、2次防水の役割が極めて重要となります。下葺き材の施工が完璧であれば、雨漏りしないことになりますが、どこかに弱点(経年劣化による腐り・穴あき・重なり不良など)があれば、雨漏りの可能性が高まります。

2.検証

2-1.トントンとは

野地板の上に、柿板(こけらいた)と呼ばれる、木片を重ね葺きし、竹釘で打ち付けます。その音から「トントン葺き」と呼ばれています。厚さは1~3㎜程度、長さは20~40㎝、幅9~15㎝程度の薄い削り板で、材は比較的耐水性のある杉・椹(さわら)・檜などです。

2-2.本件建物の野地板と下葺き材

野地板は、現在では合板(910㎜×1820㎜)を使用することが通常ですが、本件建物の年代では、小幅板(バラ板)と呼ばれる板を、隙間をあけて施工することが多いです。野地板の上に施工されるのが下葺き材のトントンです。防水材としての意味で施工します。

瓦を立合い者に少しめくってもらって確認しましたが、トントンは目視できず、土しか見えません。右写真の赤丸内が土です。現在では空葺きといって土の量が極めて少ないですが、本件建物ではかなりの土が施工されています。

小屋裏空間から確認すると、野地板の小幅板の隙間から、トントンが確認できました。下の左・右写真の赤丸内がトントンです。

2-3.散水試験による雨漏りの再現

2-3-1.北面散水

北面に散水開始すると、約5分で浸出確認しました。散水はシャワー状ではなく、かなりきつく下から上向きに実施していますが、自然の雨降りには厳しい条件の場合もあるからです。

2-3-2.南面散水

南面に散水しましたが、今回は雨水の浸出を確認できませんでした。さらに長時間散水すれば浸出するものと想像します。

2-4.瓦の不具合

2-4-1.瓦のズレ、隙間、割れ

瓦相互に隙間が生じているところが、各所に見受けられます。1枚の瓦は明らかに割れています。割れ面は新しい断面の割れです。足場を設置した位置からは離れています。

2-4-2.瓦の劣化

瓦の1枚は、凍結融解作用(瓦のひびに水が浸入し、凍結すると体積が膨張し、剥がれる)を受けたような状態です。これは、足場の設置とは関係ないものと思われます。

3.本件雨漏りについて

㈱✕✕による足場設置等工事で、瓦の各所にズレが生じたか否かは分かりませんが、ズレや割れは瓦の不具合と言えるでしょう。

問題の雨漏りとの関連ですが、1次防水である瓦が割れ、反り、ズレ、隙間が生じたとしても、瓦の不具合ではありますが、雨漏りとは直接の関連はありません。その理由は2次防水である下葺き材が雨水の浸入を防止するからです。瓦の不具合が、土を挟んで、直接に下葺き材のトントンにまで悪影響を及ぼすことは考えにくいです。

瓦の不具合により、瓦の下部に雨水が浸入する量は、増える可能性があるといえます。しかしそれは、①雨量・②風の向き・③風の強さ・④継続時間の4条件が悪くなる現象がつくられた場合に相当することになります。

1次防水である瓦の不具合が発生しても、土を挟んで、さらにその下にある2次防水である、トントン(野地板に固定されています)がずれ、または穴があくことは考えにくいです。

トントンの上にある土は、野地板+トントンの水平面と、波打っている瓦との馴染みを調整するものであり、防水の役目はありません。瓦の下に浸入した雨水は、まず土に吸収されます。少雨であれば、土が含んだ水分は時間経過により蒸発します。それを繰り返します。雨量が増え、土が吸収しきれなくなった水分は、2次防水であるトントンに到達し、その上を屋根勾配に沿って流れて排出されます。トントンの上部に浸入する雨水は適正に排出されれば、雨漏りにはなりません。

本件建物では、トントンの経過年数は不明ですが、数10年経過しているとするなら、温度差(屋根瓦下では夏場昼の60℃前後、冬場夜の0℃前後)の繰り返しと、トントンの薄い板は木材であり、含水した湿潤状態と、蒸発した乾燥状態を繰り返すと、木材にとって過酷な条件となり、経年劣化が進行すると予想されます。例えば、トントンのどこかに水分による腐朽などがあると、条件が悪ければ雨漏りします。トントンはジョイントがあり、重なっていますから、毛細管現象(現実はトントン板相互の重なり)により、長期間水分は滞留し、腐朽が進行する可能性があります。トントンは木材ですから、現在の主流である防水シートとは異なり、雨水が流れると水分を含み、速やかに乾燥しません。

強い台風時などの厳しい条件の場合、本件建物の小屋裏などには、足場の設置以前から雨漏りしていた可能性があります。雨漏りが少量なら、天井裏の断熱材グラウウール上部に溜まり、室内に浸出しない場合もあります。

4.まとめ

結論

被告 ㈱✕✕が、原告□□様宅の屋根上に設置した足場を原因とする雨漏りとは考えられません。

理由

仮に、㈱✕✕の屋根上の足場設置により、1次防水である瓦の不具合発生の原因があったとしても、2次防水である下葺き材のトントンと瓦の間に、かなりの量の土を挟んである本件屋根の構造からすれば、同足場設置によって、トントンに悪影響を及ぼしたわけではありません。本件においては、下葺き材のトントンの経年劣化こそが雨漏りの主因と考えられます。

以上、報告します。

玉水新吾

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