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意見書例5:鉄骨造ALC外壁(一部タイル張り)の雨漏り

はじめに

****/**/**、現地確認しましたので、雨漏り現象に対する意見書を作成します。

1.雨漏りのメカニズム

1-1.雨漏りの4要素

雨漏りは、下記の4つの条件設定を厳しくすれば発生します。

①雨量

②風の向き

③風の強さ

④継続時間

雨漏りには風の影響が大きく、雨水は極めて小さな隙間からでも浸入します。雨は上から下に降るだけとは限らず、風により、横からはもとより、下から上に舞い上がって降る場合もあります。

1-2.木質構造の雨漏り

木質構造の雨漏りでは、「1次防水」+「2次防水」のセットで考えます。1次防水だけでは、雨漏りを完全に防ぐことはできません。1次防水の隙間から若干浸入する雨水を2次防水で防ぎます。1次防水と2次防水とは、

1次防水 外壁サイディング材・板金・シーリングなど、外から見える部分
2次防水 捨て板金・下葺き材(外壁:透湿防水シートなど)、外から見えない部分

雨水の浸入を、外壁サイディング材などの1次防水で、できるだけ防ぎます。防ぎきれない若干の雨水については、外壁通気層の下の下葺き材で防ぎます。2次防水である外壁下葺き材の透湿防水シートの上には、雨水が流れています。一切の雨水を浸入させないという考えではなく、若干浸入する雨水を速やかに外部へ排出することにより、建物本体を傷めません。

1-3.鉄骨造の雨漏り

本件建物のような鉄骨造ALC(一部外壁タイル張り)建物においては、1-2.木質構造のような2次防水の概念はなく、1次防水のみとなります。つまり、シーリングの耐久性が大きく影響することになります。

外壁ALCのシーリング材の劣化、外壁の吹付け材の劣化によるひび割れがあると雨水浸入の可能性が高まります。鉄骨造はALC部材をつなぎ合わせるために、つなぎ目が雨漏りの原因となる可能性が高まります。鉄骨造の外壁材には、ALCや押し出し成形セメント板などが用いられ、施工性や加工も容易で断熱性・耐火性に富むという長所がある反面、外力に対して弱く、水を吸い込みやすいという弱点もあります。ALCは吸水性が高いために、素地のままでは使用できず塗装を行うことが通常です。

タイル仕上げとする場合には、ALCのジョイントの位置に合わせて、タイルの目地も合わせないと高い確率でタイルのひび割れや剥離が発生し、雨漏りの原因となります。

パラペット天端の防水処理に不備があると、外壁ALCの継ぎ目から下階へと雨水が伝わる可能性が高まります。隙間を全て不透水性の充填材で塞ぐシーリング防水に頼っています。2次防水の概念がないので、シーリングの劣化により即雨漏りに直結する可能性が高く、雨漏りについては脆弱な構造といえます。したがって定期的かつ継続的なメンテナンスが必要となります。

2.建物内部の雨水浸出状況

雨漏り跡は明確で、雨水が確実に浸入しています。

2-1.床面雨漏り跡

床に雨水の溜まり跡が見えます。

2-2.壁面雨漏り跡

壁面には雨水に濡れた跡が見えます。クロスの浮き、カビの発生もあります。

3.建物外部の状況と雨水浸入可能性

雨水の浸入口の特定については、実際に「散水試験」を実施して、雨漏り現象を再現しないと証明できません。今回は散水試験を実施せずに、目視した限りでの想定になりますが、ここまでメンテナンスを行わず劣化が進行すると、どこから雨水が浸入しても不思議ではないと言わざるを得ません。

3-1.パラペット天端板金

パラペット天端の板金部材は相当に劣化しています。上部から通称「脳天釘打ち」と呼ばれる方法で、防水の役目をはたす天端の板金に穴をあけて、ビスで固定しています。板金部材のビス周辺が凹み、水が滞留する状態で、下地のアスファルト防水材にも穴があいていることになり、内部に雨水が浸入する状態です。当初はビス穴上部に雨水浸入防止のためのシーリングが施工されていたようですが、劣化しています。

本件建物のオーナーである黒田様からの聞き取りでは、今年の5月までは301号室の雨漏りはなかったとのことですので、直接的な雨漏りとしては、板金部材が1-1の②風の向きと③風の強さの影響で、繰り返し荷重がかかり、パタパタと振動し徐々にビス固定が緩んできたものと考えます。ビスはなくなって穴があいた状態も多く、板金部材を持ち上げると、容易に動き持ち上がります。強風の場合には外れて飛散する可能性もあり、雨漏り以外の安全上も問題です。

天端板金部材相互の継手部には、「水返し」もなく、継手の隙間から雨水は内部に浸入する状態です。板金下部の防水状態は、破壊調査ではないので不明確ですが、劣化状況から判断して、浸入した雨水を適切に排水する機能はないものと思われ、建物内部に浸入している可能性があります。

3-2.屋上屋根防水

屋上のアスファルト防水(絶縁工法)自体の劣化も激しく、大きなひび割れが数多く見受けられます。アスファルト防水の下地にも雨水は浸入している可能性があります。

3-3.屋上屋根防水ドレン周り

ドレン周りは雨水が集中するために、防水の弱点になり、適切な時期にメンテナンスが必要です。排水管取合いに大きな隙間があり、雨水は建物内部に浸入している可能性があります。

3-4.外壁タイル

正面外壁のタイル張りですが、鉄骨造ALCにタイルを張ることは、現在では推奨されていません。タイルはメンテナンスフリーと呼ばれ、半永久的な耐久性があるとされた時代もありましたが、タイルの浮きによる落下のリスクが問題となっています。本件建物もタイルの裏に回った雨水の影響により、浮いた部位が多くあり、テストハンマーで音が明確に変わります。タイルも現実に剥がれています。建物本体とタイルの間には雨水が浸入していることになります。タイルが剥がれたところが雨水の浸出口となっています。

ALC外壁の目地とタイルの目地を同じ位置に合わせないとひび割れが起こります。鉄骨造は地震・台風などの水平方向の力により、微妙に横揺れがあり、「ワーキングジョイント」と呼ばれます。動きに追随できずにひび割れが発生し、雨水の浸入につながります。本件建物の縦方向には適切な位置に目地が施工されていません。

3-5.外壁塗装劣化状況

外壁ALCの継手部にシーリングが施工され、その上から吹付け塗装されています。塗装自体は他の部位と比較して劣化は少なく、途中でメンテナンスされたようです。そのメンテナンス後の時間経過により、シーリング部には既にひび割れも見受けられ、雨水浸入の可能性があります。

外壁部にある通称「3面交点」と呼ばれる部位で、3つの面が交差する部位として、雨漏りの可能性の高い部位です。目視した限り、ひび割れなどの大きな劣化は見られません。

3-6.スリーブ貫通

外壁ALCに穴をあけますので、防水はシーリングが生命線になります。通常は10年毎にシーリング打ち換えが必要となります。劣化すると雨水浸入になります。

シーリング材は便利な材料であり、多くの職種の多くの職人が使用する材料として重宝されています。シーリングの施工が適切であれば、簡単に作業でき、雨水が一応止まるのです。ただし仮止めになります。シーリングは経年劣化があり、一般に耐用年数は10年程度になります。紫外線の量により、劣化にバラツキがあります。

次の図は終日直達日射量です。水平面は劣化が激しく、北面は劣化が圧倒的に少なくなります。ただし、これは適正にシーリングが施工された場合の話です。シーリング施工箇所の幅・深さ・接着性をよくするためのプライマー施工の有無・2面接着と3面接着など配慮された場合のことです。通称「△シーリング」といわれる、小さな隙間になするシーリングでは不可です。

4.まとめ

本件建物は、30年以上経過していますが、外部には全体に相当の劣化が進行しており、適切なメンテナンスが不足しています。本号室以外の雨漏りは認識されておらず、本号室においても、過去に雨漏りせずに**月に初めての雨漏り発生に至ったことは、風の影響による天端板金部材のめくれ上がりなどの不具合によることが直接の原因であると判断します。雨漏り直前期には強風はなかったようですが、風の繰り返し荷重によるパラペット天端板金部材のビス抜けなどの影響が考えられます。今回の雨水の浸入口はパラペット天端板金部材周辺の劣化が主たる原因と想定します。雨水浸入口を特定するには、散水試験が必要ですが、雨水浸入の可能性のある部位が全体的に数多く存在し、全ての浸入口を特定することは容易ではなく、散水試験には相当の時間が必要です。

以上、報告します。

玉水新吾

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