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散水試験報告書例1:RC造スラブ上にカバー工法屋根を施工し雨漏り、散水しても浸出に時間が必要

はじめに

〇〇様(△△弁護士様紹介)から、〇〇様宅に発生している雨漏り現象について、現場調査および報告書作成を依頼されました。

****年**月**日(木)10:00~玉水新吾が〇〇様宅にて現地下見、〇〇様打合せを実施しました。雨水浸出箇所は〇〇様2F洋室の隣家取合い壁です。

****年**月**日(火)9:00~雨漏り診断士1名同行の上、玉水が現場に赴き、〇〇様立会いのもと、目視調査・散水試験を実施して、〇〇様宅の雨漏り現象を再現し、状況を確認しましたので、その結果を報告致します。

1.雨漏りのメカニズム

雨漏りは、下記の4つの条件の組み合わせにより、発生します。

①雨量

②風の向き

③風の強さ

④継続時間

したがって、大型台風でスピードが遅く直撃する場合などは、一般に①雨量が多く、②風の向きはほぼ全方向、③風の強さは強く、④継続時間はそれなりに長くなり、雨漏りに対しては最悪の条件となります。

また、雨水は上から下へ降るだけではなく、風の影響で、横から、場合によっては下から上に向かって舞い上がる場合もあります。

本件建物は、築年数の古い鉄筋コンクリート造連棟式建物であり、屋根材については、元のコンクリート陸屋根に防水施工の上、屋根勾配約2寸で屋根材が設置されております。建物が連棟式のため、隣家の取合い部周辺から雨水浸入の可能性が高いものと思われます。

2.屋根の1次防水と2次防水

屋根材は完全に覆うことなく、重ねて設置するだけですので、適正な2次防水が必要不可欠となります。勾配屋根については、雨漏り対策は、次の1次防水+2次防水のセットで考える必要があります。

屋 根
1次防水 屋根材・板金・シーリングなど、外から見える部分で、本件建物では瓦状屋根材(セキスイかわらU)。
2次防水 捨て板金・下葺き材(アスファルトルーフィングなど)、外から見えない部分で、本件建物では屋根材をめくっていないため不明。

勾配屋根部の1次防水である瓦材だけでは、雨水の浸入を完全に防ぐことはできません。多少の雨水は1次防水の下部に浸入しますので、2次防水(下葺き材)の上部には、雨水が流れていることになります。

なお、鉄筋コンクリート造・鉄骨造などの建物では、コンクリートスラブの上に塗膜防水など、「メンブレン防水」と呼ばれる不透水性被膜により、完全に覆いつくしますので、2次防水はなく、1次防水のみとなります。本件建物は、構造は鉄筋コンクリート造ですが、元の屋根は陸屋根でコンクリートスラブの上の防水仕様でした。その上に約2寸勾配で木質の屋根をつくり、「セキスイかわらU」を設置しているという特殊性があります。

一般には、2次防水として適正な材料を使用し、適正な施工を実施すれば、雨漏りは発生しません。通常は材料面が不適正ということは少なく、施工面の問題が多いです。屋根材のどこかから2次防水の上部に、雨水が浸入することは想定されます。この浸入した雨水は、2次防水である下葺き材上部と屋根材の隙間から排出させる必要があります。雨水は重力の法則により、屋根勾配に沿って高いところから低い方に流れますので、雨水を適正に排出できることが前提条件となります。

1次防水により、ほとんどの雨水を遮断し、若干浸入する雨水を2次防水で遮断することが、雨仕舞いの基本原則です。2次防水でも遮断できなければ、雨漏り現象となります。したがって、雨漏り対策については、2次防水の役割が極めて重要となります。下葺き材の施工が完璧であれば、雨漏りすることはありませんが、どこかに弱点(下葺き材の不具合・穴あき・重なり不良・取合い立ち上がり不足など)があれば、雨漏りの可能性が高まります。

ところが、本件建物においては、陸屋根コンクリートスラブの上の防水があり、その上に屋根設置という特殊性のために、通常の建物の1次防水・2次防水以外に、「3次防水」という概念が別に加わることになります。

屋 根
3次防水 屋根の下にある元の陸屋根コンクリートスラブの上の防水層

つまり、2次防水を突破した雨水は、通常ならば雨漏りになりますが、2次防水を突破しても、雨水が3次防水の上を流れて適正に排出されるなら、雨漏りにはなりません。3次防水を突破して初めて雨漏りになります。1次防水・2次防水・3次防水がそれぞれ適正に機能するなら、雨漏りに対しては安全性の高い建物といえます。逆に、雨漏り現象があるということは、1次防水・2次防水・3次防水すべてに問題があるということになります。

3.2F洋間雨水浸出状況

〇〇様宅2F洋間(雨水浸出箇所は〇〇様指摘)です。雨漏り跡から判断すると、大量の雨漏りではなく、厳しい条件の場合にのみ雨漏りするようです。

4.屋根材の劣化状況

〇〇様宅屋根材劣化状況です。屋根材の劣化は極めて激しく、ひび割れ(貫通ひび割れ含む)・表面剥離などが多数見られます。これだけ劣化していると、2次防水である下葺き材に対する直達日射量からの保護にはなっているとしても、1次防水としての機能は適正に果たしてるとは思えません。

本件建物の屋根材に使用されている「セキスイかわらU」ですが、インターネットで検索すると、数多くのトラブル事例がでてきます。経年劣化が激しく大変割れやすい材料といえます。

5.散水試験実施

本件建物における雨水浸入位置を特定するために、隣家宅との取合いパラペット部に順次ピンポイントで散水試験を実施して、雨漏り現象を再現していきます。鉄筋コンクリート造のために、雨水の浸出確認には時間がかかります。通常の雨降りよりも高圧で散水試験します。これは2階建て建物の屋根は実質3階になり、地面にある散水栓からは水圧が低下することと、散水時間短縮のためです。

①棟部北側散水

取合い部に順次散水していきます。隣家側から散水しても、隣家側屋根にも水が流れます。棟の反対側(隣家側)からも水が流れます。板金・屋根材は剥がしていませんが、板金内部では貫通しています。室内の浸出は確認できません。

②棟部南側散水

温度差を検知するサーモグラフィーカメラにも反応しません(断熱材あり)。室内浸出は確認できません。

③換気レジスター

横からの強風を想定し、換気レジスターから散水します。コンクリートスラブ防水上に水が浸入して、スラブ上に滞留した水が、排水口から流れています。

各所に長時間の散水を実施しましたが、〇〇様の室内への浸出を確認できないため、この時点で〇〇様の了解を得て、天井に点検可能な穴を開けました。

コンクリート部分に水濡れ状の跡が見られます。含水率計でコンクリート部分を計測しました。35.9%、40.0%を示しました。水が浸入していなければ、通常は5~15%を示します。水の浸入の可能性が高いことを示しています。

天井点検穴から目視すると、コンクリートスラブ下面に、エフロレッセンス(白華)と呼ばれる白い粉が多く析出しています。エフロレッセンスとは、硬化したコンクリート内部から表面に析出し、結晶化した白い物質のことです。これは雨漏り跡になります。雨漏りという水の供給がなければ、これほど多くのエフロレッセンスは発生しません。スラブ下全面に発生しているわけではなく、部分的発生ですので結露ではなく、雨漏りです。

漏水・雨漏り・結露といった水分があると、空気中の炭酸ガスと反応してできます。コンクリートの中性化現象と同じ化学式で表され、Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O となります。

水酸化カルシウムによるアルカリ性のコンクリートですが、炭酸ガスと反応して、炭酸カルシウムとなり中性化するわけです。pH12.5前後といわれるかなり強アルカリ性のコンクリート中の鉄筋は錆びにくいという特性があります。コンクリートが中性化すると、コンクリート内部の鉄筋が錆びやすくなり、劣化現象の1つといえます。中性化してもコンクリートの圧縮強度が低下するわけではありませんが、鉄筋が錆びやすくなるから具合が悪いのです。雨漏りという水分の供給があれば、コンクリートの中性化という劣化進行は早まり、建物の耐久性に悪影響を及ぼします。

④〇〇様側パラペット部に散水

エフロレッセンスが発生している直上部に散水します。

この段階で、水がコンクリートスラブ下端から少しずつ浸出してきました。雨漏り現象が再現できました。

鉄筋コンクリート造は木造と異なり、雨水の浸出に時間を要します。コンクリートスラブの上の防水層に水が滞留してから、コンクリートスラブの弱点部分(ひび割れやジャンカなど)を貫通して水がスラブ下端から浸出します。3次防水であるコンクリートスラブの上に水が滞留すると、相当時間経過後に雨漏り現象再現になります。3次防水としては機能していないことになります。雨水浸出口の直上部が浸入口とは限らず、かなり位置がずれて浸出する場合も多いです。コンクリートスラブの広範囲に水が滞留するからです。また一度浸出すると短時間で止まることはなく、継続的に徐々に浸出してきます。依頼者である〇〇様も雨漏り現象再現を目視確認しました。

6.本件雨漏りについて

今回の散水試験実施により、直接的には④〇〇様側パラペット部に散水したところが浸入口となります。しかし、コンクリートスラブの上の防水層まで雨水が到達している場合には、相当時間経過後にコンクリートスラブ下端から雨水は浸出しています。散水試験の際、コンクリートスラブの排水口から水が途切れることなく排出していました。1次防水と2次防水は適正に機能することなく、各部位にした散水は3次防水まで到達し、スラブ上の防水の不具合箇所から浸出していることになります。④以外の散水①・②・③でも、2次防水の下の3次防水まで到達しています。そして、3次防水としては機能していません。

〇〇様と隣家の取合いになる屋根パラペット部分全体が、雨漏り原因となっていますので、パラペット部分全体の補修が必要です。3次防水は期待できず、2次防水が雨漏り撲滅の生命線になりますので、丁寧な施工が必要です。なお、換気レジスター(風の向きと強さによる)からも雨水が浸入する可能性があり、立下りのある(ロングノーズ)レジスターに取換えるとベターです。

おわりに

散水試験の実施により、雨漏り現象を再現すると、雨漏り証明ができますが、雨漏りしないという証明は不可能です。その理由は、散水方向・散水強さ・散水時間等の条件を変えると漏れる可能性があるからです。雨が漏れないという証明は、事実上不可能です。水を1時間かけると漏れるかもしれません。1時間漏れなくても、2時間かけたら漏れるかもしれません。基準があるわけではありません。少し散水位置を変えたり、強い散水にすると漏れるかもしれません。永遠に証明は不可能です。ないという証明は基本的にできません。したがって、「悪魔の証明」と呼ばれています。

雨漏りの補修工事を完了しても、雨漏り現象が再発する可能性も残りますので、1年程度の経過観察が必要です。雨漏り現象は、雨水浸入位置の特定が難しく、補修工事も難しいために再発する場合もあります。

以上、報告します。

玉水新吾

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