散水試験報告書例2:RC造集合住宅の雨漏り多数
はじめに
〇〇年〇月、本件建物において発生している雨漏り現象について、原因調査および報告書作成を依頼されました。依頼者夫妻立会いのもと、目視調査・散水試験を実施して、雨漏り現象を再現し、状況を確認しましたので、その結果を報告致します。
散水試験実施者:
玉水新吾 1級建築士・1級建築施工管理技士(1級建築士事務所 ドクター住まい)
坂元康士朗 雨漏り診断士(㈲グラス・サラ)
中陳武 雨漏り診断士(㈱ナカゼ)
散水の浸入部位と浸出部位については、上記3名全員で全部位を目視確認しました。
****年*月**日現場下見、立会:依頼主夫妻・中陳・玉水
****年**月**日散水試験実施
****年**月**日散水試験実施
****年**月**日散水試験実施
1.雨漏り箇所の再現
①雨水浸入箇所
浸入口①:庇上の梁取合い
浸出口①:4F和室2掃出しサッシ書院横柱・サッシ上枠
約20分の散水で和室書院取合い柱に浸出しました。サッシ上枠からも浸出しました。奥様目視確認済です。
②雨水浸入箇所
浸入口②:庇上梁取合い
浸出口②:4F和室2~和室3柱
約20分散水で柱上部鴨居に浸出。
③雨水浸入箇所
浸入口③:庇上梁取合い
浸出口③:4F和室2~和室3柱(②の横)
約10分散水で柱上部欄間鴨居に浸出。かなり大量に浸出します。
④雨水浸入箇所
浸入口④:庇上梁取合い
浸出口④:4F和室3コーナー柱・サッシ上枠
20分散水でサッシ上枠に浸出。本件建物では基本的に、梁取合い部は水の浸入可能性大です。
⑤雨水浸入箇所
浸入口⑤:屋上バルコニー梁笠木下端
浸出口⑤:5F階段室吹抜け壁クロス
約20分散水で浸出。壁クロスから滴り落ちます。散水翌日の確認では石膏ボードジョイント部の膨れが大きくなっているようです。サーモグラフィーカメラに反応がでています。含水率計では71.7%(通常は15%前後)と高い数値です。
⑥雨水浸入箇所
浸入口⑥:4F屋上バルコニー柱(タイル剥落部)天端笠木ジョイント
浸出口⑥:タイル下地(タイル浮き)
タイル面養生後約20分散水で浸出。タイル剥落部に水がかからないように養生しています。タイル表面側には水が付着せずに、タイル裏面側に水が流れています。タイルの浮きによりタイル裏側には水が浸入していることを示しています。室内への雨漏りではありませんが、外壁タイルの裏面側に水が浸入すると、建物各部位に悪影響を及ぼすことになります。
外壁のタイルについて
パラペット部分の構造は、下部はALC、上部は鉄筋コンクリート(RC)になっており、構造上の取合い目地とタイルの目地が、45二丁掛タイル1枚分45㎜ズレています。本来は構造上の目地とタイルの目地は合わせるべきものです。台風・地震といった横からの力、温度・乾燥による収縮、車の振動等による建物の動きなどの層間変位に追随できません。テストハンマーでは、ALCの部位は音が浮いています。奥様の許可を得て、タイルを数枚剥がしてみました。比較的簡単に剥がれます。タイル~接着剤でなく、ALC表面で破壊して剥がれます(タイル復旧済)。RC~ALC目地とタイル目地ですが、タイル目地が上にあり、タイル目地から浸入した水がRC~ALC目地に浸入することになります。
⑦雨水浸入箇所
浸入口⑦:小鉄骨梁取合い
浸出口⑦:4F寝室1掃出しサッシ
約20分散水で浸出。掃出しサッシ上部には白い雨水浸出跡が多数あります。
⑧雨水浸入箇所
浸入口⑧:換気レジスター
浸出口⑧:4F寝室1掃出しサッシ(⑦の横)
約15分散水で浸出。掃出しサッシ上部には白い雨水浸出跡が多数あります。
⑨雨水浸入箇所
浸入口⑨:梁取合い
浸出口⑨:4F寝室1掃出しサッシ(⑦の横、乾燥後に⑧と同じ位置に)
約20分散水で浸出。掃出しサッシ上部には白い雨水浸出跡が多数あります。
⑩雨水浸入箇所
浸入口⑩:バルコニー2柱梁取合い
浸出口⑩:柱下外部側(パラペット天端の笠木内部から入隅へ)
20分散水で浸出。タイル裏面へ水が回っています。バルコニー床面立ち上がり部分の笠木下部から水が浸出し、下方へ流れます。以前からの現象で、常時湿潤状態で、水の通り道になる外壁タイルには苔が生えています。
⑪雨水浸入箇所
浸入口⑪:外壁入口枠上部ALC継ぎ手シーリングひび割れ部
浸出口⑪:4F内玄関横のアルミ製ドア上枠
約20分散水で浸出。
⑫雨水浸入箇所
浸入口⑫:△出窓北上部鉄筋コンクリート目地~ALC目地
浸出口⑫:5F洋室1△出窓北
約20分散水で出窓上部から浸出。
RC~ALC目地とタイル目地ですが、タイル目地が上にあり、浸入した水がRC~ALC目地に浸入することになります。
⑬雨水浸入箇所
浸入口⑬:△出窓南上部パラペット笠木板金下端
浸出口⑬:5F洋室1△出窓南
約10分散水で出窓天井板から浸出。出窓天板に雫が垂れる。
⑭雨水浸入箇所
浸入口⑭:5F洋室1中連窓上部タイル目地
浸出口⑭:5F洋室1中連窓
約15分散水で浸出。
外壁タイル表面は濡れずに、タイル内部に水がまわり、サッシ上部シーリング隙間から浸出しています。タイル裏側に水は浸入していることを示しています。サッシ上部には「水抜き穴」が設置されていません。5F納戸の窓も⑭同様に雨水浸入可能性大ですが、荷物が多くあるため、散水試験は行いませんでした。
⑮雨水浸入箇所
浸入口⑮:庇上部天端笠木下部
浸出口⑮:4F和室1掃出しサッシ上枠
約25分散水で浸出。
⑯雨水浸入箇所
浸入口⑯:WC用換気レジスター
浸出口⑯:4F洗面脱衣1出窓サッシ上枠
約25分散水で浸出。含水率計で55%と高い数値
⑰雨水浸入箇所
浸入口⑰:4F寝室2直上斜壁と梁取合
浸出口⑰:3F305号室ダイニング天井
4Fでは浸出せず、3F305号室の天井から浸出。賃貸の空室だったため、発見が遅れ、散水から浸出までの時間は不明。発見時は床面の直径1m程度が濡れている状態です。
夫妻が目視確認しました。
温度差を感知するサーモグラフィーカメラにより水の浸入を示しています。
⑱雨水浸入箇所
浸入口⑱:外部梁取合部
浸出口⑱:4F洗面脱衣1の梁型クロスから浸出
外部壁取合いの下部(既にシーリング撤去済)から浸出、つまり梁内部には水が浸入していることを示しています。
洗面脱衣1の床下点検口をあけると、4Fの床コンクリートスラブ面に散水試験による水が大量に浸入して滞留しています。4Fの床は2重床になっているため、外部から浸入した水は壁体内を通り、床下へと浸出しています。
⑲雨水浸入箇所
浸入口⑲:4F寝室2上部斜壁梁取合部
浸出口⑲:4F寝室2の床フロアーから浸出
約45分散水で浸出。フロアーが家具に隠れて暗く、確認しにくい部位です。
⑳雨水浸入箇所
浸入口⑳:外部梁取合部天端笠木シーリング切れ
浸出口⑳:4F浴室2のユニットバス天井裏
約20分の散水で浸出。
洗面脱衣室2の床下点検口をあけると、4Fの床コンクリートスラブ面に散水試験による水が大量に浸入して滞留しています。外部から浸入した水は壁体内を通り、床下へと浸出しています。
㉑雨水浸入箇所
浸入口㉑:4F寝室2上部斜壁梁取合部(⑲に同じ)
浸出口㉑:305号室洋1天井の火災報知機から浸出
4Fでは浸出せず、3F305号室の天井の火災報知機から浸出。賃貸の空室だったため、発見が遅れ、散水から浸出までの時間は不明。発見時は床面の直径1m程度が濡れている状態です。
その後火災報知機が鳴り出し迷惑をかけました。想定外の場所から浸出です。
雨水浸入位置・浸出位置図(省略)
2.結論
雨水浸入箇所
①4F和室2 掃出しサッシ上部庇上の梁取合い |
②4F和室2~和室3 上部庇上梁取合い |
③4F和室2~和室3 上部庇上梁取合い(②の横) |
④4F和室3 コーナー柱サッシ上庇上梁取合い |
⑤5F階段室 吹抜け壁屋上バルコニー梁笠木下端 |
⑥4F屋上バルコニー柱(タイル剥落部) 天端笠木ジョイント |
⑦4F寝室1 掃出しサッシ上部小鉄骨梁取合い |
⑧4F寝室1 掃出しサッシ上部換気レジスター |
⑨4F寝室1 掃出しサッシ上部梁取合い |
⑩4Fバルコニー2 柱梁取合い |
⑪4F内玄関横 アルミ製ドア上部ALC継ぎ手シーリングひび割れ部 |
⑫5F洋室1 △出窓北上部鉄筋コンクリート~ALC目地 |
⑬5F洋室1 △出窓南上部パラペット笠木板金下端 |
⑭5F洋室1 中連窓上部タイル目地 |
⑮4F和室1 掃出しサッシ上庇上部天端笠木下部 |
⑯4F洗面脱衣1 出窓サッシ上WC用換気レジスター |
⑰4F寝室2 直上斜壁と梁取合 |
⑱4F洗面脱衣1 外部梁取合部 |
⑲4F寝室2 直上斜壁と梁取合(⑰隣) |
⑳4F浴室2 ユニットバス上部梁取合部天端笠木シーリング切れ |
㉑4F寝室2 斜壁と梁取合部(⑲に同じ) |
****年**月**日からの3日間で実施した散水試験により、雨漏り現象が再現できました。雨漏りの証明ができた部位は、上記の21箇所で、これらの部位からの雨水の浸入は確実です。
散水試験を実施した3名(玉水新吾+坂元康士朗+中陳武)全員で、全浸入箇所、全浸出箇所を目視確認しました。
外部の鉄骨梁をALCで箱状に被覆している内部には水が浸入しています。梁材と柱・梁材と外壁との取合いは、全て雨漏りによる不具合が発生することになります。
構造上の目地(ALC~RC取合い、ALC相互)と外壁タイルの目地の位置が、ズレているため、層間変異に追随しにくく、タイルに割れが生じやすい(雨水が浸入しやすい)です。
外壁タイルの裏面側には水が浸入しています。サッシ上枠には水抜きがないために、タイル裏側を伝う水が滞留しています。
本件建物には多くの部位から雨水が浸入しています。雨漏りはカビの発生になり、カビを食するダニの発生につながり、ヒトの健康を害することになります。雨水が供給され続けるということは、結露の原因にもなり、やがて木部に対し白蟻発生につながります。
これだけ多くの部位から雨漏りがあるということは、通常の建物の基本的性能を満たしているとは思えません。台風襲来・集中豪雨などの厳しい条件でない通常の雨降りの場合でも、雨水は浸入しているものと思われます。
3.補修工事
早急な雨漏り対策が必要です。一度発生した雨漏りについて、雨水の浸入部位を全箇所適切に見つけることは難しいです。1箇所でも見つけ切れなかった場合には雨漏り現象が再発します。また、雨漏り補修も難しく、再発する可能性が高いです。通常は、雨が漏る部位のみを補修しますが、雨が漏れていなくても同じ納めで施工している部位も多数ある為に、雨が漏れる可能性があります。雨漏り補修工事完了後であっても、雨漏り現象再発の可能性があるために、相当の経過観察期間が必要となります。
4.おわりに
今回の散水試験を実施して、多くの部位から雨水が浸入していることが明確になりました。雨漏りの原因追求は難しく、雨水の浸出口は1箇所であっても、浸入口は複数個所ある場合も多く、今回の散水試験により、雨水浸入の全箇所を適正に見つけられなかった可能性もあります。
散水試験の実施により、雨漏り現象を再現すると、雨漏り証明ができますが、雨漏りしないという証明は不可能です。その理由は、散水方向・散水強さ・散水時間等の条件を変えると漏れる可能性があるからです。雨が漏れないという証明は、事実上不可能です。30分散水して漏れなくても、1時間散水すると漏れる場合もあります。1時間散水して漏れなくても2間散水すると漏れる場合もあり、基準があるわけではありません。永遠に証明は不可能です。ないという証明は基本的にできません。したがって、「悪魔の証明」と呼ばれています。
今回は3日間の散水試験で実施しましたが、更に時間をかけると別の部位からの雨水浸入の可能性もあります。鉄骨部材の耐火被覆断熱材施工により雨水浸出確認が難しく、天井点検口も新設せず、破壊検査もしていませんので、充分な検証はできません。基本的にサッシ取付けや梁などは、同様の納まりで施工するために、同じ納まりの部位では、雨漏りが1箇所のみではない場合も多いです。風向きによって雨漏りしていないだけの可能性もあります。
以上、報告します。
玉水新吾