日本の住宅のストック更新期間
建物には物理的寿命と社会的寿命があります。
日本住宅30年は、諸外国に比較して圧倒的に短いです。メンテナンスで、建物の寿命は、半永久にもつはずです。物理的寿命は30年程度ではありません。日本以外の国では、はるかに永いことが証拠です。
対して、社会的寿命は、所有者の考え方によります。世の中に、断熱性能・気密性能など、より高性能な建物が増えてくると、イヤになってしまって、解体撤去して建替えする場合もあります。雨漏りする建物で、補修を繰り返しても、完全になおらない場合には、もう寿命として、建替えする場合もあります。まるで使用できる車を新車に買い替える感覚です。我々技術者の使命として、雨の漏らない建物をつくり、雨漏りしたならば適正に補修できなければなりません。
個人の所有物ですから、選択は自由ですが、全体的な環境として考えると、建物は永く使用すべきものです。
30年日本は木造軸組み工法、100年アメリカはツーバイフォー工法。同じ木質系住宅で3倍違います。あの世界一贅沢と言われるアメリカ人ですが、「地球の人口が全員アメリカ人とすると、地球は数年でパンクする」と言われています。そのアメリカ人でさえ、住宅においては、日本人の3倍も長持ちさせています。
日本人は何千万円の住宅を、使い捨てにする世界唯一の国民になってしまっています。
日本には、住宅を長持ちさせようという住思想がなかったともいえます。日本人のもつ潔癖性・完璧主義が原因でしょう。室内でもクロス仕上げ面は、汚れ・隙間があっても、クロスをめくり、石膏ボードを取り外すと、きれいな木部が見えてきます。
以前に施工担当した建物で、事情により、築18年で解体撤去して建替えした物件がありました。18年経過で一体どれくらい劣化しているものかという疑問を解消する目的で、皆で見に行きました。解体前に大工に要所を剥がしてもらい、皆で確認しました。確かにクロス表面は劣化しており、設備も時代遅れを感じましたが、建物自体はどうということはありませんでした。建て直さずにリフォームで対応できると思いました。
戦後の急成長で、経済が発展していく中で、忘れ去られた考えです。江戸時代は、世界有数のリサイクルシステムを形成した環境都市でしたから土壌はしっかりしています。
ケニア出身のワンガリ・マータイ女史は言いました。「MOTTAINAI」。この言葉がノーベル平和賞につながりました。
環境 3R + Respect = MOTTAINAI
3RのReduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という環境活動をたった一言で表せるだけでなく、かけがえのない地球資源に対するRespect(尊敬の念)が込められている言葉が、「MOTTAINAI」です。
本来は、日本人の日本人による日本人の為の日本語ですが、日本人がこの言葉の素晴らしさを認識せずに、外国人が認識しました。
日本人が「モッタイナイ」というと、「お前はケチや」とバカにされてしまいます。そしてこの言葉は使われなくなります。
建物は構造的に問題なければ、リフォーム可能です。問題があっても、解体しなければならないほどの酷い状態は滅多にありません。悪いところを直し、直らなければ部材取替えを繰返すと半永久的にもつものです。
「30年住宅スクラップ&ビルドシステム」は、常に住宅ローンの残っている住宅に住むことになります。ローンが終わったら、建て替えの時期、直ぐ新ローンが始まります。サラリーマンの人生は、1軒の家を残して終わりになってしまいます。これでは豊かさの実感のしようがありません。
評論家の田坂広志さんの「風の便り」によると、現在の日本は、
①世界第1の健康長寿国 (男性81.4歳、女性87.4歳) ②世界第3のGDP生産国536兆円、対外純資産365兆円世界一 ③世界有数の特許・科学技術立国 ④世界有数の高等教育を国民に施している国 ⑤過去75年間、戦争をしたことがない国 |
これだけ揃った豊かな国は、地球上の歴史上の中において、かつて存在したことがありません。これ以上一体何を求める必要があるのでしょうか?と問われています。
一方で何故、我々は、豊かさを実感できないのでしょうか?
その原因の1つが、住宅の30年スクラップ&ビルドシステムです。
建物は、構造的に30年で使えなくなることはありません。補修なり部材を取り換えれば半永久的に使用できるはずです。住宅を30年で建て替えることは世界の常識から、大きく乖離しており、世界中から顰蹙(ひんしゅく)をかっているものと思われます。
世界でも類を見ないといわれる、急激な人口減少社会が起こりつつある日本の中で、長続きするものではありません。主役であるべき建築主の幸せにもつながりません。本来、30年住宅の2倍の60年、あるいは100年住宅をストックとして建てると、1年当りのコストは大幅に減少します。
決定する権限は、施工者ではなく、建築主のみにあります。建物を永く使用することにマイナスはありません。途中で古いモノにイヤ気がさして、新しいモノが欲しくなるだけです。建物を消耗品扱いしてはいけません。