散水試験報告書例3:地方の古い木造建物の雨漏り多数
はじめに
△△弁護士から、原告屋根屋施工による、被告宅の屋根瓦葺き替え工事において、発生した雨漏り現象について、現場調査および報告書作成を依頼されました。****年**月**日および、**日、大工1名同行の上、現場に赴き、夫妻立会いのもと、目視調査・散水試験を実施して、雨漏り発生状況を確認しましたので、その結果を報告致します。
1.雨漏りのメカニズム
略
2.散水試験実施
2-1.表下屋庇(道路側)
2-1-1.道路面北角コーナー隙間から雨水浸入
2-1-1.座敷の床の間天井・床の間横の物入れ天井に浸出(散水時間3分以内)
2-1-2.2-1-1より南に順次散水。水切り上部シーリング切れ部の全個所から浸入
2-1-2.散水位置の直下の天井面に速やかに浸出(散水時間3分以内)
2-1-3.玄関入口上部の水切り上部シーリング切れ部に散水。
2-1-3.シーリング切れ部の全個所から浸入(散水時間3分以内)
ここで2-1-1および2-1-2で問題となる、表下屋庇の板金上部ですが、シーリング切れ個所が多数あります。これらの全個所から雨水が浸入しています。
結果論ですが、板金立上げを、指差しの位置(段がある)まで上げておき、上部にシーリング施工しておくべきであったと考えます。あるいは、別の板金部材を施工し、現在の板金立上り部に被せるという方法も考えられます。
屋根~壁立上り部の下葺き材(ゴムアス)立上り寸法が小さい。小屋裏からの確認ですが、立ち上がり高さが、指差し位置までしかありません。風が強ければ容易に雨水が浸入します。
瓦材料・瓦施工については、特に異常は感じません。現状で丁寧な施工がされており、稚拙なレベルではないと考えます。同行した大工職人も同意見です。
2-2.裏下屋庇(庭側)
2-2-1.離れ取合い部に散水すると雨水浸入
化粧梁と板金立上り取合い、下葺き材のゴムアス立ち上がりが板金上部で切断されているので、水は浸入します。木部の劣化が進行しています。
上部の束は半分見えており、左官取合いの隙間も大きいです。木部と土壁のように異なった材料は、温度収縮・乾燥収縮の比率が異なり、時間の経過に伴って、隙間が開いてきます。
2-2-1.離れ取合い部に散水すると直下の天井面から浸出(散水時間3分以内)
2-2-2.下屋~本体取合い部の束下部と板金立上り部に散水(北側から1本目・2本目・3本目(縦樋)の3本の束のみに散水)全て雨水浸入するので、後は同様と判断。
2-2-2.直下の天井面各所に浸出(散水時間3分以内)
2-3.風呂洗面小屋根
2-3-1.板金立上り部と本体取合い部から雨水浸入
2-3-1.風呂の勾配天井・洗面天井に浸出(散水時間3分以内)
2-4.台所・食堂の下屋~本体
下屋~本体取合いに散水すると3分で浸出
瓦工事全体
リフォーム工事としての、瓦工事の全体の印象としては、通りもよく、丁寧な施工であると思います。
2-5-6.その他小屋裏空間全体
小屋裏空間での確認です。木部と土壁の間には隙間があります。異なる材料では、温度収縮・乾燥収縮の比率が異なるために、一般的には多少は発生する現象で、強い風など条件が悪ければ、これらの隙間からも雨水は浸入します。しかし、本件建物では、特別に厳しい条件ではなく、通常の雨でも雨漏りしている状況です。
3.本件雨漏りについて
屋根面において、取合いのない屋根のみの部位については、施工上の問題はありませんが、屋根面の瓦と壁面の左官が取合う部位が問題となります。板金立上り部の納まりに問題があります。板金上部のシーリングが劣化しています。下葺き材(ゴムアス)の立上り寸法も不足しています。
本件建物が真壁仕様であり、柱・束・梁材が化粧として露出するため、大壁仕様と比較して、雨仕舞が難しい点があります。台風時など、①雨量・②風の向き・③風の強さ・④継続時間の条件が悪ければ、屋根以外の外壁の隙間からも雨水は浸入する可能性があります。本件建物の雨漏りの原因が、屋根工事のみにあるとは確かに言いにくい面もあります。しかし、屋根瓦の葺き替え工事を契約して、施工する以上は、屋根面からの雨漏りがないように施工することは当然ですが、屋根との取合い部の雨仕舞も含めて、雨漏りが発生しないように工事しなければなりません。屋根との取合いの壁や、板金・シーリングなども施工責任に含まれるべきものです。強い台風など、厳しい条件の場合だけに雨漏りするわけではなく、通常の雨の場合において、雨漏りすることは瑕疵である言えます。
本件建物において、契約書・契約約款がありませんが、雨漏りの保証期間は通常10年とされています。保証期間を短縮する、あるいは全く保証しないならば、契約時点までに、依頼主に十分に説明し納得を得る必要があります。
なお、シーリング工事のみで雨漏り対策を実施しようとしても、シーリングは必ず経年劣化するものですので、防水効果は一時的なものにすぎず、劣化とともに、雨漏りが再発する可能性が極めて高いことは言うまでもありません。シーリング工事には、下地との接着性確保のためのプライマー施工、適正な幅・深さ寸法が必要ですが、本件建物においては、現在からでは施工しにくい状況です。当初の工事中に実施すべきことを、後から施工すると多くのやり直しを伴うことになります。
屋根の取合い部から離れた高い部位にある、土壁と木部との隙間については、そこからの雨漏りリスクを含め、現況を依頼主に説明して、契約に含めるのか別途工事とするのかを、契約時点までに決定しなければなりません。
また、雨漏り防止のため、納まり上、現状から変更する点、例えば、現在の左官外壁の上から板金を張るなどが必要と判断する場合には、コストも含めて施主に提案するべきものです。
4.その他 耐震性について
そもそも、本件建物においては、市の木造住宅耐震診断結果により、耐震性向上を目的として、耐震改修工事を計画したものです。ところが、構造体の状況を確認せずに、瓦工事を既に実施完了したために、構造体の修正・補強ができない状態になっています。
現状から耐震改修工事を行う場合には、瓦をすべてやり直しする必要があります。また、新たな野地板を施工せずに、従来の小幅板をそのままにしたために、耐震性向上は、ほぼ無視された結果となっています。ただ旧の瓦には土が多く施工されていたと思いますが、重量が軽くなった点についてのみ、耐震性が向上したにすぎません。
本来ならば、基礎・構造を検討し、建物全体の水平・垂直を補正しなければなりません。その後に、構造用合板を張るなど、建物全体の耐力バランスを考えて構造体を固めた後に、瓦工事を実施するべきもので、仕事の順番が根本的に間違っています。
野地板合板の施工以外にも、例えば、小屋裏の床は現在、竹を敷いてその上にむしろを敷いてありますが、床に構造用合板を張るなどの対策を講じておれば、耐震性は向上したはずです。自社の瓦工事の契約・工事完成・代金受領を急ぐために、無理に実施したものと考えられ、誠意のある工事とは思えません。少なくとも、施主に充分な説明がなされておらず、納得が得られていません。
5.まとめ
結論
原告が施工した、被告宅の屋根には、雨水浸入を防止する部分の瑕疵が存在し、現に雨漏りが発生していますので、雨漏り補修工事が必要です。
理由
本件建物において、散水試験を実施しましたが、下屋の瓦屋根と本体の取合い部において、雨水が浸入する個所が多数あります。3分以内の短時間散水で、取合い個所はほぼ全て雨漏りします。雨水浸入個所がこれだけ多数存在するということは、通常の雨でも常時雨漏りしているものと判断します。
以上、報告します。
玉水新吾