散水試験報告書例4:大規模リフォーム工事後の雨漏り多数
〇〇弁護士様
〇〇弁護士様より、依頼主様邸(住所)の雨漏り調査依頼を受けました。
****年**月**日、法律事務所にて、依頼主様夫妻・〇〇弁護士・玉水新吾にて下打合せ(資料受領)。
****年**月**日現地下見確認、依頼主様夫妻・✕✕建築士・玉水新吾立会。
****年**月**日9:00~17:00、依頼主様邸にて、玉水新吾が、雨漏り診断士1名(㈲グラス・サラ 坂元康士朗)同行の上、依頼主様夫妻立会のもと、散水試験を実施しました。雨漏り現象を再現し、状況を確認しましたので、雨漏り診断士として、結果を報告致します。
1.はじめに
雨漏りは、下記の4つの条件の組み合わせにより、発生します。
①雨量
②風の向き
③風の強さ
④継続時間
したがって、風がふかない場合には、上から下へ降る雨だけになり、雨漏り現象が現れない場合も多く、大型台風でスピードが遅く直撃する場合などは、一般に①雨量が多く、②風の向きはほぼ全方向、③風の強さは強く、④継続時間はそれなりに長くなり、雨漏りに対しては最悪の条件となります。また、雨水は上から下へ降るだけではなく、風の影響で、横から、場合によっては下から上に向かって舞い上がる場合もあります。
本件建物は、鉄骨造2階建ての建物で、□□㈱施工、****年**月契約、****年**月着工、****年**月一応の竣工、****年**月入居です。屋根材は折板葺き、外壁材はサイディング張りです。依頼主様夫妻への聞き取り調査では、入居後の過去3年間で多数回の雨漏り現象があったとのことです。
2.雨漏りのメカニズム
雨漏りは、「1次防水」+「2次防水」のセットで考える必要があります。本件建物においては、屋根材は折板葺きの1次防水のみです。外壁材は外壁通気層を確保して、1次防水+2次防水となっています。破壊検査はしていませんので、外壁2F部分は不明ですが、2次防水がない可能性があります。通常、1次防水だけでは、雨漏りを完全に防ぐことはできません。外壁材のわずかな隙間から若干浸入する雨水を2次防水で防ぎます。2次防水の外には、雨水が若干流れていることになります。雨水の浸入を、外壁サイディング材や板金材などの1次防水で、できるだけ防ぎます。防ぎきれない若干の雨水については、下葺き材の2次防水で防ぎます。外壁の2次防水である下葺き材の透湿防水シートの外側には、雨水が流れています。建物本体を傷めないうちに、速やかに雨水を排出しなればなりません。2次防水を突破した雨水が、雨漏りになります。
1次防水・2次防水とは
屋根 | 外壁 | |
---|---|---|
1次防水 | 屋根材・板金・シーリングなど、外から見える部分 | 外壁材・板金・シーリングなど、外から見える部分 |
2次防水 | 捨て板金・下葺き材(アスファルトルーフィングなど)、外から見えない部分 | 捨て板金・下葺き材(透湿防水シート・アスファルトフェルトなど)、外から見えない部分 |
雨漏り補修工事を行う際、屋根・外壁の一部をめくってみると、2次防水のどこかに不具合が発生している場合が多いです。雨漏り対策については、2次防水の役割が極めて重要となります。2次防水が、完璧な材料と施工であれば、雨漏りは発生しませんが、どこかに弱点(穴あき・重なり不良・取合い立ち上がり不足など)があれば、雨漏りの可能性が高まります。雨水の浸出口に対して、雨水の浸入口をピンポイントで適切に見つける必要がありますので、散水試験を実施して雨漏り現象を再現していきます。
3.散水試験実施
雨漏り現象が再現出来たところのみを記載します。
①浸入箇所:屋根立上り東南壁上部
階段上部のパラペット部最上部に散水しました。約20分の散水で浸出しました。
中央部(脚立ハシゴ上部付近)に大きな穴があり、多くの水が入ります。何のための穴かは不明ですが、水が大きな穴に浸入し、軒裏天井の隙間から大量に浸出します。
シングル屋根材の上部からではなく、下部から浸出します。水が軒裏内部に浸入していることになります。浸入した水が軒天から勢いよく浸出します。
基礎には水垂れ跡が多くあります。土台水切りがなく、建物内壁に入った水が、基礎~土台取合い部から浸出します。建物内部に浸入した水になります。外壁通気層に浸入した水が適正に排出できず、滞留します。
②浸入箇所:屋根立上り北西壁上部
階段上部のパラペット部最上部に散水しました。約15分の散水で各所に浸出しました。シングル屋根材にも水がまわって膨れています。手で押さえると水が吹き出てきます。
土台水切りの上部(外壁通気層の透湿防水シート外側を流下する水は雨漏りではなく正常)からではなく、下部から浸出してきました。建物内部に浸入した雨漏りになります。2F物入れの階段側壁から室内に浸出してきました。
2Fの外壁材が室内側から見えます。2次防水である下葺き材が施工されていないとするならば、雨漏りは当然に発生します。2F物入れの階段側壁材に水滴が付きます。室内側に浸出し雨漏りになります。雨漏りによる塗装の劣化が進行しています。この部位は、外気に面する壁になりますが、断熱材が施工されていないために結露発生と断熱不足が懸念されます。散水約30分後、ゲストルームのテーブル天板に雫がつきました。天井から雫が垂れてきました。雨漏りになります。
③浸入箇所:北東屋根庇
水を溜めます。約10分すると、水が外部に垂れてきました。防水に不具合があります。
④浸入箇所:北東2階配管貫通部
配管貫通部は外壁の防水層に穴を開けることになるため、雨漏りしやすい部位です。約15分散水で1F倉庫の基礎~土台取合い部から水が浸出しました。建物内部に水が浸入しています。
⑤浸入箇所:北東屋根庇立上り端部
建物本体外壁・屋根庇立上り部天端・屋根庇立上り部側面の通称「3面交点」と呼ばれる部位で、1枚の防水シートではうまく施工できないために、雨漏りしやすいところです。約10分の散水で、勝手口横と、1F倉庫の基礎~土台に浸出しました。同時に照明器具カバー内に水が溜まり、近傍から雫が垂れてきました。
⑥浸入箇所:北西2階ベランダ
本件建物のベランダの施工ですが、デッキプレートの上部にコンクリート施工のみであり、防水は無しです。目地部分はひび割れしています。雨仕舞いとしては大問題となり、確実に雨漏りすることになります。掃き出しサッシ下端部の入隅部に粘土で土手をつくり、水を溜めると一気に水位が低下しますので、水が浸入しています。散水すると約15分で多くのところから一気に浸出してきました。
給湯器の配管ですが、ベランダ床の土間コンクリートを4箇所で貫通しています。水は当然にコンクリート内部に浸入します。防水層がなく雨漏りは必然です。
温度差を検知するサーモグラフィー(赤外線)カメラに、青色の反応が出ています。この部位は他の赤・黄色の部位よりも温度が低く、水が浸入していることになります。建物内部に浸入した水が、巾木の下から大量に浸出してきました。徐々に増えていきます。ベランダ直下にあたる浴室・脱衣室・便所・和室・LDKに一気に浸出してきました。
天井・サッシ枠・神棚から垂れてきました。和室の畳をめくると、畳下地合板が濡れています。含水率計で42.0%と高い数値を示し、水が浸入していることを示します。
サッシ周りから浸出します。建具枠取り合いから水が垂れてきました。
和室のコンセントボックスを開けてみると、水が付いています。壁内を雫が、垂れる音がポトポトと聞こえます。依頼主夫妻によると、静かな深夜の睡眠中には、うるさくて目がさめるそうです。
壁内を見るカメラを入れてみると濡れています。和室天井からも浸出します。
入口枠を通じて垂れてきます。巾木下からも浸出します。
防水層が施工されていないベランダの直下にあるユニットバス天井点検口をあけてみると、鉄骨梁に水が付着しています。
ユニットバス天井上部に大量の水が滞留しています。防水層がないために当然の雨漏りになります。ベランダ(直下は浴室・脱衣室・便所・和室)は全体に、鋼製デッキプレートの上にコンクリートのみであり、断熱性はほとんどありません。冬場のユニットバスの高温空気と間で結露が発生します。
ユニットバス天井点検口から覗くと、南西側の外部からの光が入ってきます。中間水切りと2F外壁サイディングの取り合いに隙間があり、雨漏りになります。
⑦浸入箇所:東南入口天窓
天井クロスがめくれて、黒カビも発生しており、雨漏り跡が明確です。天窓のコーナー部は3面交点になり、雨漏りしやすい部位です。各所に散水しましたがなかなか浸出せず時間がかかりました。
天窓横の向かって左入隅部(南側)に約20分散水すると、玄関天窓とLDK収納から浸出しました。
玄関の床の水濡れと天井からの雫です。
サーモグラフィーカメラに水の浸入反応が出ています。青くなっている部分は他よりも温度が低いことを示し、水が浸入していることになります。含水率計は41.4%と高い数値を示し、水が浸入しています。
LDK収納の建具枠から浸出し、床は相当濡れました。
⑧浸入箇所:北東1階洋室窓上部の2階窓下部
約10分の散水で、洋室サッシに一気に浸出しました。
⑨その他懸念事項
破壊検査はしていませんが、建物内部に水が滞留する可能性があります。
中間水切り:水切りの上部にシーリング施工されており、浸入した水の排水ができない状態です。水が壁内部に滞留することになります。
土台水切り:立上り部と水切りの出の寸法が短く、外壁通気胴縁の上から水切りが施工されている可能性があり、排水が適切にできません。
4.結論
散水試験実施により、雨漏り現象が再現できました。雨漏りの証明ができた部位は下記の8箇所で、雨水浸入は確実です。現地で、依頼者様夫妻・〇〇弁護士・✕✕建築士が本件建物の雨漏り現象の再現を目視確認しました。
①浸入箇所:屋根立上り東南壁上部 |
②浸入箇所:屋根立上り北西壁上部 |
③浸入箇所:北東屋根庇 |
④浸入箇所:北東2階配管貫通部 |
⑤浸入箇所:北東屋根庇立上り端部 |
⑥浸入箇所:北西2階ベランダ |
⑦浸入箇所:東南入口天窓 |
⑧浸入箇所:北東1階洋室窓上部の2階窓下部 |
5.補修工事
本件建物は、多くの部位から雨水が浸入しています。目視しただけでも既に、カビの発生があり、依頼者様夫妻によると常時カビ臭いとのことです。カビを食するダニの発生につながり、ヒトの健康を害するものです。水が供給され続けるということは、やがてシロアリの発生になります。早急な対策が必要です。
補修工事については、シーリングだけの対応では仮復旧にはなっても、抜本的になおっていません。2次防水である下葺き材の適正な施工が必要です。外壁材を剥がして、下葺き材の施工からやり直す必要があります。2F外壁材にも2次防水が必要です。例えば、サッシ周りの施工は75㎜幅両面防水テープを使用し、下葺き材である透湿防水シートを充分に押さえ付けて、サッシ枠と一体化する必要があります。透湿防水シートの端部の施工が重要です。伸縮性のある防水テープや樹脂製役物など適切な材料を使用します。下葺き材の施工が完璧であれば、雨漏りは発生しません。
ベランダの土間には、防水と断熱が必要です。結露防止と雨漏り防止の両方の対策が必要です。
雨漏り補修は難しく、再発する可能性も高く、雨漏り補修工事完了後であっても相当の経過観察期間が必要となります。かなり大掛かりな工事になります。
6.終わりに
本件建物では、入居者である依頼者様夫妻が詳細な記録を残されており、入居後3年間で、多数回の雨漏りがあったようです。強風時に雨漏りするだけでなく、通常の雨でも雨漏りしています。今回の散水試験を実施しても、多くの部位から雨水が浸入していることが明確になりました。住宅としての基本性能を満足させた建物にはなっていません。
雨漏りの原因追求は難しく、雨水の浸出口は1箇所であっても、浸入口は複数個所ある場合も多く、今回の散水試験により、雨水浸入の全箇所を適正に見つけられなかった可能性もあります。今回は1日だけの散水試験で実施しましたが、更に時間をかけると別の部位からの雨水浸入も充分に考えられます。天井点検口も新設せず、破壊検査もしていませんので、充分な検証はできていません。雨漏り浸入箇所の候補が多く、完全に実施するには更なる時間も必要です。基本的にサッシ取り付けなどは、同様の納まりで施工するために、同じ納まりの部位では雨漏りが1箇所のみではない場合もあります。風向きによって雨漏りしていないだけの可能性もあります。
他の部位からは雨漏りしないという証明は、通称「悪魔の証明」と呼ばれるもので、証明できません。散水を強くしたり、時間を長くしたり、向きを変えると雨水浸入の可能性があります。30分散水して漏れなくても、1時間散水すると漏れる場合もあります。1時間散水して漏れなくても2間散水すると漏れる場合もあり、基準があるわけではありません。
本件建物を施工した□□㈱は、大手住宅企業であり、社内のしかるべき技術者が本件建物を現場調査すれば、どのような状況であるかはお解りになるはずです。
以上、報告します。
玉水新吾