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散水試験報告書例9:古い木造住宅を大規模補修したが雨漏り

△△弁護士様から、〇〇様邸(住所)の雨漏り現象について、見解を求められました。

①0000年00月00日、現地にて、現状把握のための事前打合せ(〇〇様・△△弁護士・玉水)を実施。

②0000年00月00日、現地にて、散水試験のための、準備打合せ(〇〇様・玉水・大工1名)を実施。小屋裏空間確認のため、物入れ内部に天井点検口を施工。雨漏り原因の仮説を立案。

③0000年00月00日9:00~15:30現地にて、仮説検証のための散水試験(玉水・大工1名)を実施。

雨漏り診断士として、結果を報告致します。

はじめに

雨漏りは、雨量・風の向きと強さ・雨の継続時間の諸条件により、発生します。

雨水の浸入口を適切に探し出し、対応の方向性を見出すために、雨漏り現象を再現する必要があり、散水試験を実施しました。

〇〇邸屋根伏図 略

雨漏りのメカニズム

雨漏りは、「1次防水」+「2次防水」のセットで考える必要があります。屋根瓦材のみといった1次防水だけでは、雨漏りを完全に防ぐことはできません。屋根瓦の隙間から若干浸入する雨水を、2次防水で防ぎます。2次防水の上には、雨水が若干流れていることになります。逆に2次防水が、完璧な材料と施工であれば、雨漏りは発生しません。

1次防水と2次防水とは

1次防水 屋根材・板金・シーリングなど、外から見える部分
2次防水 捨て板金・下葺き材(屋根:アスファルトルーフィング、外壁:透湿防水シート・アスファルトフェルトなど)、外から見えない部分

雨水の浸入を、屋根瓦や板金などの1次防水で、できるだけ防ぎます。防ぎきれない若干の雨水については、下葺き材の2次防水で防ぎます。2次防水である下葺き材のアスファルトルーフィングの上には、雨水が流れています。建物本体を傷めないうちに、速やかに雨水を排出します。2次防水を突破した雨水が、雨漏りになります。雨漏り補修工事を行う際、屋根・外壁の一部をめくってみると、2次防水のどこかに不具合が発生している場合が多いです。

雨は上から下に降るだけとは限らず、風により、横からはもとより、下から上に舞い上がって降る場合もあります。雨水は極めて小さな隙間からも浸入します。

雨漏り可能性の候補として、浸入口の仮説をたて、高さが低い位置から順番に、散水試験により検証します。

仮説1:屋根北面の瓦棒板金と平板瓦の取合い部(屋根勾配が変わる)
仮説2:屋根北面の切妻、西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間
仮説3:屋根北面の切妻、東側隣家取合い部の板金と平板瓦の隙間
仮説4:屋根棟瓦と平板瓦の隙間
仮説5:屋根南面の切妻、東側隣家取合い部の板金と平板瓦の隙間
仮説6:屋根南面の切妻、西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間

仮説1:屋根北面の瓦棒板金と平板瓦の取合い部(屋根の勾配が変わるため)から雨水浸入

屋根勾配の変わる、瓦棒と平板瓦取合い、右写真は拡大。下葺き材であるアスファルトルーフィングが垂れて見える異常な状態である。瓦棒から平板瓦に向けて、散水開始

ユニットバス天井点検口から目視確認すると、10分以内の短時間の散水で、雨漏り発生。瓦棒板金の下葺き材であるアスファルトルーフィングが、めくれ上った異常状態になっている。

この部位が本件建物の雨漏り現象の主たる原因となっています。本来は、平板瓦の下葺き材であるアスファルトルーフィングが、瓦棒板金のアスファルトルーフィングの上になるように施工(水下側を先に施工し、水上側を後から上に重ねて施工)し、重なりを100㎜以上確保するべきですが、縁が切れています。

瓦棒板金と平板瓦の施工者が異なり、それぞれ単独の仕事を行ったものの、取合い部の納まりに不備がありました。下葺き材上部の横瓦桟箇所で、水が一度滞留して、徐々に浸入していきます。結果的に瓦棒板金の下葺き材であるアスファルトルーフィングの下側に、雨水が回り込んでいるので、野地板に雨水が浸入しています。瓦棒板金の屋根勾配は緩く、水が排出されにくく、当然に雨漏りが発生する状態です。

仮説1:検証結果

屋根勾配の変わる瓦棒と平板瓦取合い部の隙間から、雨水が浸入する。ユニットバス天井点検口から、雨水浸入を目視確認したが、10分以内の短時間散水で、かなり大量の雨水が浸入する。本件建物においては、瓦棒板金の下葺き材であるアスファルトルーフィングの施工不良が主たる原因である。

仮説2:屋根北面の切妻、西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間から雨水浸入

西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間。部分的に接着。西側ケラバ板金に向けて散水開始。

10分以内の短時間の散水で、雨漏り発生。瓦棒板金の下葺き材であるアスファルトルーフィングの立ち上がりが少なく、めくれ上がり、巻いた状態になっている。またアスファルトルーフィングが部分的に破れている。

本来は、平板瓦の下葺き材であるアスファルトルーフィングが、瓦棒板金のアスファルトルーフィングの上になるように施工(水下側を先に施工し、水上側を後から上に重ねて施工)し、重なりを100㎜以上確保するべきですが、縁が切れており、結果的に瓦棒板金のアスファルトルーフィングの下側に、雨水が回り込んでいます。当然に雨漏りが発生する状態です。2次防水である下葺き材に、浸入した雨水は、すべてこの部位に集中して雨漏りになります。

ユニットバス天井点検口から目視確認、結果的に仮説1と同じ部位に雨漏り発生。

仮説2:検証結果

西側ケラバ板金と平板瓦の隙間から、雨水が浸入する。ユニットバス天井点検口から、雨水浸入を目視確認したが、10分以内の短時間散水で、かなり大量の雨水が浸入する。

仮説3:屋根北面の切妻、東側隣家取合い部の板金と平板瓦の隙間から雨水浸入

東側隣家取合いのケラバ板金と平板瓦の隙間、捨谷は施工されていないが、板金出幅は大きく、防水テープを施工。屋根北面隣家取合いの東側ケラバ板金に向けて散水開始。隣家取合いのため、長時間の散水は隣家への悪影響を考えて行わない。

仮説1と同じく、瓦棒板金の下葺き材アスファルトルーフィングの下側に雨水浸入。瓦棒板金の下葺き材アスファルトルーフィングの上に流れる雨水は、屋根勾配の変わる瓦棒板金との取合い部にて、アスファルトルーフィングの下側に、雨水が浸入する。

仮説3:検証結果

隣家取合い東側ケラバ板金と平板瓦の隙間から、雨水が浸入する。ユニットバス天井点検口から、雨水浸入を目視確認したが、10分以内の短時間散水で、雨水が浸入する。

仮説4:屋根棟瓦と平板瓦の隙間から雨水浸入

屋根棟瓦と平板瓦の隙間状況、屋根棟瓦と平板瓦の隙間に散水開始。

平板瓦の下葺き材アスファルトルーフィングの上に流れた雨水は、仮説2と同じく、瓦棒板金の下葺き材アスファルトルーフィングの下側に雨水浸入。

浸入した雨水を適正に排出できずに、野地板合板の上に回ります。結果的には、仮説1の部位に雨漏り発生となります。

仮説4:検証結果

屋根棟瓦と平板瓦の隙間から、雨水が浸入する。ユニットバス天井点検口から、雨水浸入を目視確認したが、10分以内の短時間散水で、雨水が浸入する。

仮説5:屋根南面の切妻、東側隣家取合い部の板金と平板瓦の隙間から雨水浸入

屋根南面の切妻、東側隣家取合い部の板金と平板瓦、防水テープははがれている。取合い部に防水テープ施工。平板瓦には接着跡があり、粘着性を失っている状態

東側隣家取合い部の板金と平板瓦の隙間に散水開始、隣家に悪影響がでないように短時間の散水。

防水テープ裏側に雨水は浸入する。内部に捨谷板金が施工されているものの、立ち上がりが少ない。

板金に孔があいており、雨水は浸入する状態。小屋裏に入って確認した。見えにくいが、若干の雨水が浸入した。

仮説5:検証結果

屋根棟瓦と平板瓦の隙間から、雨水が浸入する。浸入量は多くはない。雨水浸入を小屋裏にて、目視確認したが、20分の散水で、雨水が浸入する。

仮説6:屋根南面の切妻、西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間から雨水浸入

南面屋根は下地が悪く、むくっているが、雨漏りの原因ではない。仮説2の北面と同じく、板金と平板瓦の隙間から、雨水は浸入しているはずだが、障害物がないために、下葺き材のアスファルトルーフィングの上に、雨水が流れて、軒先までいってから自然排水できており、建物に害はない。雨漏りは確認できない。

仮説6:検証結果

西側ケラバ部の板金と平板瓦の隙間からの雨水浸入は確認できない。

その他

屋根の下葺き材について

施工業者の見積りには、雨漏りの保証期間を10年とした上で、17.屋根瓦工事 下地防水 ゴムアスルーフィング 89㎡ @800 ¥71,200

と記載されています。現場で確認すると、平板瓦・瓦棒板金ともに、下葺き材については、ゴムアスルーフィングではなく、アスファルトルーフィング940が施工されています。材料面では、耐久性の観点で、契約内容の品質から低下しています。

2000年4月施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」により、住宅の雨漏りに関して、10年間の長期保証が求められるようになってきました。 多くの住宅会社では、屋根と外壁の下葺き材の品質レベルを上げた経緯があります。従来のアスファルトルーフィング940から、通称「ゴムアスルーフィング」と呼ばれる改質アスファルトシート(アスファルトにゴムや樹脂を添加して、材料の品質を改善したもの)に変更し、材料面で耐久性を向上しました。

雨漏りに関して、下葺き材の材料と施工は、極めて重要であり、雨漏りしない場合には、30年以上の長期間にわたって、通常は目視することなく、取り替えることもないためです。屋根材直下は、夏場の昼で、温度が70℃前後にもなり、冬場の夜間で、氷点下になる厳しい環境であり、下葺き材料の劣化が懸念されます。

(参考)

本件建物ではありませんが、アスファルトルーフィングを手で触るとボロボロに劣化して、雨漏りになっている現場があります。

下葺き材に、適正な材料を使用し、適正な施工がなされれば、多くの雨漏り現象は発生しません。

小屋裏の雨漏り跡

小屋裏の断熱材の上に過去の雨漏り跡、上部の母屋に雨垂れ跡があるが、今回の散水試験では確認できていない。断熱材の上部ということは、リフォーム工事後に、若干の雨漏りしたことが想定される。

おわりに

今回の散水試験により、雨水浸入箇所を、北側屋根で4箇所、南側屋根で1箇所発見しました。これらの合計5ヶ所からの雨水浸入は確実です。

雨漏りの主たる原因としては、瓦棒板金の下葺き材と、平板瓦屋根の下葺き材の取合いにおけるアスファルトルーフィングの施工不良です。北側屋根の4箇所の雨漏りは、すべてこの部位に集中しています。リフォーム工事の際の、屋根工事に原因があると判断します。

雨水の出口は1箇所であっても、浸入口は1箇所とは限らず、複数の浸入口がある場合も多く、浸入口を完全的確に見つけることはかなり難しいです。下から舞い上って上に入る雨水もあり、雨水の浸入口を完全に見つけきれなかった可能性もあります。

以上、報告します。

玉水新吾

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