散水試験報告書例10:木造住宅の雨漏り
1.はじめに
✕✕1級建築士事務所の✕✕様より、〇〇様邸の雨漏り調査依頼を受けました。0000年00月00日9:00~17:00、〇〇様邸にて、雨漏り診断士1名(坂元康士朗)同行の上、散水試験を実施しました。
雨漏り診断士として、結果を報告致します。
雨漏りは、下記の4つの条件の組み合わせにより、発生します。
①雨量
②風の向き
③風の強さ
④継続時間
したがって、大型台風でスピードが遅く直撃する場合などは、一般に①雨量が多く、②風の向きはほぼ全方向、③風の強さは強く、④継続時間はそれなりに長くなり、雨漏りに対しては最悪の条件となります。また、雨水は上から下へ降るだけではなく、風の影響で、横から、場合によっては下から上に向かって舞い上がる場合もあります。
総2階建て等で、切妻屋根や片流れ屋根等のように、屋根1面に「取合い」のない場合には、雨漏りの可能性は低いですが、外壁と屋根の取合いや穴をあける部位(例えば、サッシ・設備配管貫通部等)がある場合には雨漏りの可能性が高くなります。
2.雨漏りのメカニズム
本件建物のような木質系建物においては、雨漏りは、「1次防水」+「2次防水」のセットで考える必要があります。屋根材や外壁左官材のみといった1次防水だけでは、雨漏りを完全に防ぐことはできません。屋根材・外壁材のわずかな隙間から若干浸入する雨水を、2次防水で防ぎます。2次防水の上には、雨水が若干流れていることになります。
雨水の浸入を、屋根・外壁・板金材などの1次防水で、できるだけ防ぎます。防ぎきれない若干の雨水については、下葺き材の2次防水で防ぎます。屋根・外壁の2次防水である下葺き材の上には、雨水が流れています。建物本体を傷めないうちに、速やかに雨水を排出しなればなりません。2次防水を突破した雨水が、雨漏りになります。
1次防水と2次防水とは
屋根 | 外壁 | |
---|---|---|
1次防水 | 屋根材・板金・シーリングなど、外から見える部分 | 外壁材・板金・シーリングなど、外から見える部分 |
2次防水 | 捨て板金・下葺き材(アスファルトルーフィングなど)、外から見えない部分 | 捨て板金・下葺き材(透湿防水シート・アスファルトフェルトなど)、外から見えない部分 |
雨漏り補修工事を行う際、屋根・外壁の一部をめくってみると、2次防水のどこかに不具合が発生している場合が多いです。2次防水が、完璧な材料と施工であれば、雨漏りは発生しません。雨漏りに対して重要な役割を担う下葺き材を紫外線から守り、経年劣化を防ぐための保護材が、屋根材・外壁材であるとも言えます。いずれにしろ、下葺き材の上部・外部側には、水が流れていることになります。
〇〇様邸の雨水浸出箇所として、1F和室10畳掃き出しサッシ上部の欄間壁に雨漏り跡があります。また同箇所サッシと内障子鴨居からの浸出があります。
順次、散水試験を実施して、雨漏り現象を再現することにより、雨水浸入箇所を特定していきます。
3.散水試験実施
雨漏り浸出箇所の上部が、重力の法則により、雨水浸入箇所の候補となります。
①バルコニー部
バルコニー取り付けのビス穴が多数あり、パテで堤防をつくり、水を溜めていきます。バルコニー取合い部に散水します。近くの下屋と本体取合い部に散水します。
いずれも雨水浸出しません。
②エアコンスリーブ穴
外壁を貫通しているために候補とします。パテもかなり劣化しています。
室内のベッド横に浸出しました。エアコンスリーブ穴から雨水は浸入します。サーモグラフィーカメラ(温度差を検知します)にも反応しました。
③バルコニーサッシ周り
サッシ周りは外壁に穴をあける取合い部になるため、常に雨漏りの可能性が高い部位といえます。掃き出しサッシ下枠にビス穴がありますが、この下部は建物内部になり、防水を破っている可能性があります。散水すると水はビス部周辺に滞留します。
サッシ上枠・鴨居取合い部から浸出しました。サッシ下枠から雨水は浸入します。
なお、バルコニーの屋根ですが、外壁取合い部にシーリング劣化によるひび割れがあります。屋根上から散水すると、屋根下に大量の水が入ります。外壁に降った雨水は最終的にサッシ下枠に集中することになります。
そこで、サッシ下枠ビス穴をパテで埋めて、タオルを掛けて雨水が浸入しないようにして散水すると、浸出水量が大幅に減少しましたので、下枠からの浸入と思われます。
④その他上部にあるサッシ周り
浸出しません。
⑤軒裏天井~外壁取合い
最上部であり、考えにくいですが、念の為に30分程度散水すると、1F和室壁に浸出しました。
勢いよく流れてきました。徐々に広がってきました。サッシ上枠と鴨居取合い部にも浸出してきました。廊下の中連サッシにも浸出してきました。
4.結論
②エアコンスリーブ穴
③バルコニー掃き出しサッシ下枠
⑤軒天~外壁取合い
今回の散水試験実施により、上記からの雨水浸入は確実です。関連として、バルコニー屋根と外壁取合い部については、外壁を雨水が伝うために、旧シーリング完全撤去の上、新シーリング再施工も必要です。
5.終わりに
雨漏りの原因追求は難しく、雨水の浸出口は1箇所であっても、浸入口は複数個所ある場合が多く、今回の散水試験により、雨水浸入の全箇所を適正に見つけられなかった可能性もあります。雨漏り浸入箇所の候補が多く、散水試験を完全に実施するには足場設置と更なる時間も必要です。
他の部位からは雨漏りしないという証明は、通称「悪魔の証明」と呼ばれるもので、証明できません。散水を強くしたり、時間を長くしたり、向きを変えると雨水浸出の可能性があります。30分散水して漏れなくても、1時間散水すると漏れる場合もあります。1時間散水して漏れなくても2間散水すると漏れる場合もあり、基準があるわけではありません。雨漏りが再発した場合には、再度散水試験から実施することになります。
以上、報告します。
玉水新吾