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意見書例3:漏水の補修範囲を狭く設定したために、2期工事が必要となった。

〇〇 弁護士 様

「共同住宅名」宅において、上階宅から、****年**月**日に発生した漏水現象について、1級建築士としての見解を求められました。本件建物の現地調査を、****年**月**日、入居者名・〇〇弁護士立会いのもと、実施しました。以下、漏水現象に関する見解を述べます。

(本報告書に使用した写真は、全て****/**/**玉水新吾撮影)

1.はじめに

1-1.建物に悪影響を及ぼす水

一般に、下記の3つの原因により、水に関連する不具合が建物に発生します。建物にこれらを原因とする水の供給があれば、建物の腐食、カビの発生等により、建物の劣化や人の健康被害の恐れが生じます。

①漏水(給水管・給湯管、汚水排水管・雑排水管・雨水排水菅の水漏れ)

②雨漏り(雨量・風の強さ・風の向き・継続時間の4条件が影響)

③結露(外部の温度・内部の温度と絶対湿度)

1-2.本件建物における経過の概略

****年**月**日、✕✕号室において、初めての漏水が認識されました。原因は上階浴室の雑排水管の継手部分が外れたものです。外れた原因としては、浴槽からの排水管に詰まりが生じて適正に排水ができずに、雑排水管内に滞留した水の圧力によること等が考えられます。

入居者によると、天井から浸出した水には、入浴剤の匂いを感じたとのことです。本件建物の構造は鉄筋コンクリート造であり、木造や鉄骨造とは異なり、水が漏れた場合には、徐々に長期間にわたってポタポタと浸出して、乾燥には多くの時間を要します。その後****年**月ごろにかけて、補修工事が実施され、一応の完了となりました(「1期工事」と称します)。その後に新たな漏水事故は発生していません。

1期工事の打合せ・工事中において、入居者と施工者側との間で、補修範囲について見解が異なりました。施工者側は、1期工事の範囲以外のところには漏水の被害が発生していないと判断し、1期工事完了により、本件の問題は解消するものと考えました。一方の入居者は、疑問を感じて納得しませんでした。その後時間を経過して、****年**月に、1期工事の補修範囲に不信を感じた入居者が単独で、1期工事範囲外の調査と補修工事に着手しました。そこでフローリング床下地材や天井構造材などに水漏れの痕跡を発見し、1期工事の施工範囲内だけでは、補修工事が完了していないことを確認しました。

その後継続して****年**月まで1期工事以外の部分の補修工事を実施しました(「2期工事」と称します)。施工者が2期工事を担当し、損傷の状況は、****年**月**日付け「改修工事に伴う漏水状況報告書」(丙第1号証)として提出されています。現実に現場を確認した立場での報告書です。多数の水濡れ跡、スラブ金属部の腐食状況・床下地合板のカビなど多数の不具合箇所が確認できます。

2期工事の施工に当たっては、1期工事施工者の現場監督も立ち会って、2期工事の状況を確認しており、また入居者による工事写真は多数撮影されています。2期工事の完成により、構造材になる、スラブのデッキプレート金属部には既に防錆処理がされて、錆は見えなくなっています。入居者による施工者に対する工事代金の支払いも完了しています。

工事を急いだ理由ですが、漏水など水の供給がある場合に発生するカビは、入居者の健康を害することは事実ですので、速やかにすることが望まれます。カビなどを原因とする健康を害する程度については、人によるバラツキがあり、一概にはいえませんが、アレルギー症状などの健康被害をもたらすことがあります。そして一度発症してしまうと、以後は体が敏感に反応して体調不良が続きます。

2.本件建物の被害状況

1期工事・2期工事共に既に完了していますが、2期工事で天井点検口が設置されているために、2期工事の範囲の天井裏を直接確認できます。天井裏には漏水の痕跡が明確に確認できます。

乙第1号証の「鑑定書」、乙第2号証の「マンション漏水の損害範囲について」が提出されています。これらには、それぞれ専門家の見解として、水漏れ跡やカビ・錆などは存在しないと記載されております。

しかし、乙第1号証では、****/**/**現地訪問した際に、「枠材下部表面のビニールが剥離しているのが確認され、水を吸い込んだ事によるビニール剥離と見受けられた。また、付近の床下地合板(構造用合板)や床組にも水濡れ跡(シミ)が生じているのが確認された」とあります。

この時点で、専門家として、ある程度の拡大被害を認識されていたのではないかと思われます。この段階で更なる調査は可能だったのではないでしょうか。

乙第2号証では、ファイバースコープにより開口部から2~3m程度を確認し、乾いた状態であり、カビ・錆はなしとされていますが、2~3mを超えた範囲は確認できないと思います。

丙第1号証の「改修工事に伴う漏水状況報告書」が、施工者により、2期工事の状況を踏まえて作成されました。多くの被害写真が添付され、〇〇弁護士による準備書面にも、その写真番号を記載しながら多数の不具合箇所を指摘しています。

私は、****年**月**日に現場確認して写真撮影しましたが、漏水の痕跡が明確です。

1期工事の段階では、1期工事範囲外の天井石膏ボードやフローリング床を剥がして点検するわけでもなく、直接確認できない部位も多く存在し、技術者が充分に見ることができなかったものと思われます。2期工事の段階で、天井が開口され、フローリング床も剥がして、現実に漏水の被害状況を確認できる状態になりました。現在は、天井点検口が設置されており、実際に漏水の痕跡を確認することができます。

2-1.エフロレッセンス(白華)

エフロレッセンスとは、硬化したコンクリートの内部から表面に析出し、結晶化した白い物質のことです。漏水・雨漏り・結露といった水分があると、空気中の炭酸ガスと反応してできます。レンガ・タイルなどでも見受けられます。コンクリートの中性化現象と同じ化学式で表され、Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O となります。

水酸化カルシウムによるアルカリ性のコンクリートが、炭酸ガスと反応して、炭酸カルシウムとなり中性化するわけです。アルカリ性の中の鉄筋は錆びにくいという特性がありますが、コンクリートが中性化すると、コンクリート内部の鉄筋が錆びやすくなり、劣化現象の1つといえます。

2-2.軽量鉄骨天井下地(野縁)の錆

2期工事の範囲内で、軽量鉄骨天井下地(野縁)材に部分的に錆の発生状況が確認できます。軽量鉄骨天井下地材は、一応亜鉛メッキの防錆処理がされている材料ですが、水に濡れると錆びます。水に濡れなければここまでは錆びません。構造体ではないために、下地材の取替えや塗装はされずに、錆が残っています。

2-3.天井裏で錆びていない部位

今回の漏水箇所から離れた部位では、軽量鉄骨天井野縁材は、水に濡れていないために、発錆は確認できません。

3.本件建物の漏水の原因検証

3-1-1.漏水(給水管・給湯管、汚水排水管・雑排水管・雨水排水菅水漏れ)

本件建物において、浴室雑排水管の外れが漏水の原因であったことは確実です。下階では、1期工事の補修箇所だけではなく、2期工事の範囲にも漏水被害が現実に認められました。上述の通り、2期工事は既に完了していますが、天井点検口から、漏水の被害状況は現在でも確認可能です。1期工事の補修完了後には他からの漏水現象は全くありませんので、漏水対策は完了しており、2期工事の補修により、被害対策も完了しているものと判断できます。なお、下記②・③の理由により、排水管からの漏水以外の雨漏りが、2期工事部分の被害の原因であるとは考えられません。

3-1-2.雨漏り(雨量・風の強さ・風の向き・継続時間の4条件が影響)

雨は上から下へ降るだけではなく、風の影響により下から上に向かって降る雨もあります。これらの4条件設定を厳しくすれば雨漏りになる可能性があります。

①水平面:本件建物は3Fであり、水平面である屋根(屋上)からの雨漏りは、まず4Fに浸出し、その後に3Fに浸出することが通常ですが、3Fでは認識されていません。

②垂直面:外壁からの雨水浸入については、外気に面する壁・サッシ周り・配管貫通部などの取り合い部や穴をあけた部位から、雨水が浸出してきますが、室内において目視した限り、その形跡はありません。雨水が浸入している場合には、カビ・汚れ・クロスの黄ばみ等が生じます。しかし、天井裏の写真を確認しても、外気に面する壁面には、雨水浸入跡はありません。現実の入居者である土佐氏に聞き取りしても、雨水の浸入は認識していません。通常は雨漏り現象が発生する場合、直ちにクレーム化して判明します。本件建物の水の被害は、雨漏り現象とは考えられません。天井点検口から天井裏を見ると、外部壁から水濡れ跡までは、相当の距離があります。もし、雨漏りが原因であるなら、水漏れ部分に至るまでの天井の石膏ボードの上部には水が滞留するために、水跡が確認できるはずですが、そのような痕跡は認められません。

一般に、雨水の浸入口を特定するためには、浸出口から雨水が出ている必要があり、確認するために行うのが散水試験です。散水試験の実施により、雨漏り現象を再現してはじめて、浸入口を特定でき、雨漏りの証明ができます。

室内・天井裏には、現実に生活し続けている入居者自身が、雨水の浸出は認識していませんので、散水試験を実施する必要はありません。

3-1-3.結露(外部の温度・内部の温度と絶対湿度)

鉄筋コンクリート造の建物において、コンクリートやガラスは熱を通しやすいために、結露の可能性があります。夏場の高温多湿気候において、冷房の使用による温度差、冬場の暖房による温度差において、通常に発生するものです。結露は雨漏りや漏水とは異なりますが、同じ水(空気中に含まれる水蒸気)による被害となります。

外気に面するところ、特に隅角部(室内から見て入隅)は、2方向から熱の影響を受けるために、熱が伝わりやすい部位となるために、結露が発生しやすい部位です。隅角部の中でも熱の伝わりやすいコンクリートスラブの影響がある天井・床付近は「3面交点」となります。熱を伝えやすい床スラブコンクリート1面と外壁コンクリート2面が接するという、結露が発生しやすい部位となります。また、入隅部は空気の流れも悪く、結露しやすい部位です。

302号室の室内を目視確認しましたが、カビの発生や汚れなどの結露跡はありません。冷暖房はエアコンの使用であり、24時間換気が常時作動していますので、結露は発生しにくい環境となっております。結露に問題のある住まい方として、土佐氏は、洗濯物の室内干し、大量の観葉植物、熱帯魚の飼育、室内で開放型のストーブの使用など、室内に大量の水蒸気を発生させる住まい方はされていません。現実に生活し続けている入居者自身が、室内壁(特に入隅部)に結露現象を認識していません。本件建物の水の被害は、結露現象とは考えられません。

3-2.その他

基本的に今回の漏水事故が発生せずに、水に濡れていなければ、2期工事は実施する必要のないものでした。今回の漏水事故の発生を原因として、入居者にとっては、お金の立替え、一時的にしろホテル仮住まい、施工者が作業するための立会い、子供の進学のための勉強への支障、それらに伴うストレスなど、多くの迷惑を被ることになりました。自分が所有して居住する建物に、下地材の腐食、カビの発生・金属の発錆を見ることは、決して気分のよいものではありません。

漏水事故から3年以上経過した現在でも、今だに落ち着いた生活にはなっていません。このような工事は、当事者としてもやりたくてやる工事ではありません。水に濡れた痕跡が明確であったためにやむを得ず実施したものです。1期工事の段階で、更なる範囲も調査・確認されていたならば、ここまで解決が長引くことはなかったはずです。

(添付図:写真撮影方向 略)

4.まとめ

結論として、2期工事部分の水害は、上階の浴室排水の漏出が原因です。浴室の漏水の補修完了後は新たな漏水はありません。その他の漏水、雨漏りや結露を原因とする水害はありません。

1期工事に設定した施工範囲の判断は、当時の現場状況の調査確認が不充分であり、問題があったことになります。その結果、入居者による2期工事が必要となったものといえます。

以上、報告します。

1級建築士 玉水新吾

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