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意見書例4:密集商店街の雨漏り事例で、隣接建物が多くあり、散水試験は不能

〇〇 裁判官 様

事件番号:略

事件名:損害賠償調停事件

建物住所:略

構造:鉄骨鉄筋コンクリート木造陸屋根3階建て、築43年

原告:略、被告:略

玉水新吾

建築士意見書

本件建物の現場調査を、****年**月**日14:00から実施しました。1級建築士・雨漏り診断士として、雨漏り現象に関する見解を述べます。

1.はじめに

1-1.雨漏りの4要素

一般に、雨漏りは下記の4つの条件の組み合わせにより、発生します。

①雨量

②風の向き

③風の強さ

④継続時間

雨は上から下へ降るだけではなく、風の影響で、横から、場合によっては下から上に向かって舞い上がる場合もあります。台風時などには、最悪条件となり、雨漏りが発生しやすいです。

1-2.散水試験による雨漏り現象の再現

雨漏りは建物の特定部位に散水して、雨漏り現象を再現して初めて、雨水浸入口が明確になります。散水試験を実施しないと曖昧さが残ります。原因を究明して、その後に対策を講じることが原則です。雨漏りの原因である浸入箇所を、的確に見つけることができるかがポイントになります。雨水の浸出口は1箇所でも、浸入口は複数個所あることが多いです。複数箇所の浸入口に対し、複数箇所の浸出口という場合もあります。浸入口を見つけて補修工事をして、1ヶ月で雨漏り再発ということが通常におこります。雨水浸入口を完全に見つけられなかったためで、時間をかけて、丁寧に散水試験を行う必要があります。30分散水して漏れないからといって、1時間散水すると漏れるかもしれません。散水方向を少し変えると漏れるかもしれません。散水の強さを強くすると漏れるかもしれません。かなり難しいです。いかに的確にすべての浸入口を見つけることができるかがカギになります。散水試験を実施しないと明確にはなりません。

しかし、本件建物のような商店街にある密集状態では、建物が近接・接しており、散水試験として大量の水を撒くスペースがなく、また隣地への立入り、水浸しになるなど、近隣住民の協力を得にくい場合が通常です。したがって、原因究明のための散水試験を実施せずに、経験と勘でいきなり補修工事をやらざるを得ない場合が多く、本件建物の補修工事もそのような状態で補修されました。

1-3.雨漏りの『悪魔の証明』

散水試験の実施により、雨漏り現象を再現して初めて雨水浸入口が特定でき、雨漏りの証明ができます。ところが、雨漏りしないという証明は事実上不可能です。理由は、散水方向・散水強さ・散水時間等の条件を少し変えると漏れる可能性があるからです。雨が漏れないという証明は不可能です。ここが漏れなくても、他は漏れるかもしれません。水をかけて10分間漏れなくても、30分かけると漏れるかもしれません。30分漏れなくても、90分かけたら漏れるかもしれません。少し場所を変えたら漏れるかもしれません。少し強く水をかけたら漏れるかもしれないということで、永遠に証明は不可能です。ないという証明はできないために、「悪魔の証明」と呼ばれます。

2.本件建物の雨漏り状況

本件建物には、随所に雨漏りの痕跡が見られます。雨漏りの時期は不明ですが、雨漏りしていたことは事実です。

3.本件建物の雨漏り補修工事

現地確認では、当時は雨漏りしていましたが、一応補修工事が完了しており、現在では、雨漏りは止まっているようです。補修工事後に雨漏りは発生していないようで、現状の目視だけですが、一応妥当な補修工事であったと推測されます。密集地では近隣建物により、風の影響が少なく、雨水が横から多量にふきつけることが少なくなり、雨漏り現象が出にくい場合もあります。

本件建物で実施された雨漏り補修工事が妥当かどうかは、現状からの目視検査だけのため、厳密には不明です。今後の時間経過により証明されることになります。

雨漏りの補修工事は難しく、補修しても雨漏りが再発する場合が多いです。したがって、雨漏り補修完了後には、再発の可能性を考えて、経過観察期間が必要です。可能なら、補修後に大型台風があり、問題がなければ一応信用できると考えます。

今回は補修工事後に長期間の経過をしていませんので、雨漏りは完全に止まったとまでは断言できませんが、相当期間の経過により、一応の安全とします。

建物の外壁下地としてブロック積みのところがあり、ブロック目地のモルタル詰めも不良で、強い散水を行うと雨漏りする可能性はあります。

狭小地の中での補修工事はやりにくく、完全な補修工事になりにくい可能性もあります。一方、狭小地のために、風の向き・強さが遮られ、雨漏りしにくくなります。

4.まとめ

①本件建物に雨漏りが発生していたことは事実です。雨漏り補修工事が完全かどうかは、厳密には不明です。そのために経過観察期間を設定し、雨漏りが完全に止まったかを確認します。経過観察期間において、大きな台風を経験すると安全です。補修工事後の相当期間について、雨漏りが発生していないようであり、補修工事内容は妥当で、一応安全だと判断します。

②雨水浸入口特定のための散水試験を実施せずに、補修工事を実施していますので、雨水浸入口が他にも存在する可能性は否定できません。

③雨漏り補修工事の場合には、広範囲にわたって抜本的に補修されることなく、なるべく簡略に、コストが安くなるように補修されることが通常です。したがって完全に止まったかの経過観察期間を必要とします。

④被告側が行う雨漏り補修工事と、原告側が行う店舗内装工事を、同時に施工することは可能との主張がありますが、建築としては無理があります。理由は、通常の施工業者は、雨漏りの兆候を見つければ工事に着手しません。発注者が「責任を持つから強行せよ」との指示を出せば、施工すると思いますが、雨漏りの素人である発注者がそのような決断を下すことは通常できないと思います。

⑤賃借しようとする建物の雨漏りは、通常想定されることはなく、原告側が契約を継続するか、中止して撤退するかの判断は、短期間では難しいと思われます。結果論として早く撤退の判断をすれば、双方の被害が少なくなったと思われますが、そもそも想定外の雨漏りだったため、判断できなかったものと思われます。

以上、報告します。

1級建築士・雨漏り診断士 玉水新吾

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